えいのうにっき

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「時代はサブスクリプションモデル!」と思っていた自分へ。「カスタマーサクセスとは何か」を読んだ

今のお仕事で携わっているプロダクトもそうだし、個人で開発・運営しているサービス( https://pixe.la/ )もサブスクリプションモデルを採用している。自分の発言を漁ってみると、以下のような発言もしていたりした。

それくらい、これからのビジネスの在り方としてとても可能性を感じていた(いる)し、実際に最近では TV CM でも「サブスクリプション」というワードを耳にするようにもなってきた。そんな「サブスクリプション教」に入信しかけていた少し前の自分に贈りたい、一冊の本に最近出会えたのでメモしておきたい。「カスタマーサクセスとは何か」という本。よく語られる「自社サービスをやってる会社に入りたい」という感覚の正体も、実はこの本に書かれているものだったんじゃないかと思ってしまった。

デジタル時代の競争力の源・リテンションモデル

本書の冒頭・第一章で、いきなり以下のような記述がされていて、これまでの自分の考えをちょっと恥ずかしく感じた。

デジタル時代に強い競争力を持つ事業である真の理由は、課金制度がサブスクリプションモデルかどうかではない。真の理由は、リテンションモデル(カスタマーを虜にするモデル)だという点だ。 - カスタマーサクセスとは何か 第一章 英治出版

(リテンションモデルへの)シフトは不可逆的で、「シフトしない」という選択肢はない。あらゆる業界はそこから逃れられない。 とも書かれていて危機感を覚えると同時に、そのことにとても身に覚えがある感覚と、「まだまだその先頭集団を走れる可能性が十分にある!」といったワクワクに似たようなものも感じてしまった。

この "リテンションモデル" について、本書では、以下4要素すべてを満たすプロダクトをリテンションモデルと定義する、としている。

  1. 利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う。
  2. 利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくて済む。
  3. 利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダウトが常に最新状態に更新・最適化され続ける・
  4. 利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す。

これらの根拠としては、以下のようなことが挙げられていた。

  • 限りなく低いコストで劣化することのないコピーを得られるようになったデジタル時代において、上記1点目で示されるようなベネフィットは "コピー" することができない。
  • "供給側が握っていた情報" が、デジタル時代において当たり前となったテクノロジーによって利用者側に開放され、経済取引の選択権も利用者にシフトしたことにより、上記2点目のような条件は前提・必須なものとなった。
  • 3点目は、競合プロダクトの価値が「中毒になるレベル」へシフトし、選ばれ続けるのに必要なプロダクト価値の水準も「中毒になるレベル」へシフトしたことによるもの。
  • 4点目は、「自分のことを理解してくれている」「よい提案をしてくれそう」という信頼や「将来に生み出しそうな価値」への期待自体も価値の一部を構成するようになったため。

いずれも、日々肌で感じているものに相反しない・むしろそれを裏付けてくれるもののように思える。

ちなみに、従来までのモデルのことを本書では「モノ売り切りモデル」と呼んでいる。この従来モデルとリテンションモデルとの相違点を「売った後にプロダクトの価値や収益構造を変え続けることができるかどうか」という点であるとしていて、変化の大きく早い業界に身を置く自分としても、その強さは十分理解できるものだった。(その分、従来モデルで事業を展開している企業が持っている「リアル店舗」のことを「素晴らしい買い物体験を提供する場としてより重要な顧客接点に進化しつつある」としていて、ここがうまくできている企業・事業は今後もおもしろくなりそうだな、とも感じた。)

第一章の終盤で「リテンションモデルはカスタマー起点に発想する」「自分のカスタマーたちが実現したいコトや成果・成功は何か、それにはどんなデータが必要かを考える」とされていて、それが、本書のタイトルにもなっている「カスタマーサクセスとは何か」(第二章)につながっていく。

カスタマーサクセスとは何か

本書の第二章で カスタマーサクセスは「農耕(ファーミング)」であって「狩猟(ハンティング)」ではない とされていて、これがリテンションモデルに大きく寄与する所以なのだろうと思った。従来モデルでは「商品を買ってもらうまでが大事」であったのに対し、リテンションモデルでは「商品を買ってもらってからが大事」なのだから、それはそう。という感じがする。買ってもらってから何をするのか、というと、抽象的な表現(かつ身も蓋もない良い方)になるが、 カスタマーサクセスはカスタマー(「一度でもお金を払ってプロダクト(を含むサービス)を買ってくれたお客さま・既存顧客のこと)に成功(サクセス)を届ける ということに尽きる。

もちろん、"何がカスタマーの「成功」なのか" については、具体的に深く正しく知る必要がある。"成功の具体的な定義はカスタマーごとに違うため、基準値もカスタマーと議論して決める・契約前の営業時から議論し始められるのが理想。" と、本書にも書いてある。同じプロダクトチーム内のメンバー間でも "成功像" が実はバラバラだった、ということもさることながら、"何が「成功」なのか" が曖昧なまま購入してしまうカスタマーも往々にして存在する。

そのようなことを考慮すると、"誰が「カスタマー」なのか" ということも大事になってくる。「成功を届けられない人には売る時間も使わない」「カスタマーに対しては、成功を届けるまで責任をもって行動する」、こうした意思決定と行動指針をどれくらい一貫して持てるかも大事なことと思わされる。

リテンションモデルとカスタマーサクセスがなぜ表裏一体な関係なのか

本書では、"カスタマーサクセスがリテンションモデルに大きく寄与する所以" について、「リテンションモデルの成功要因」と「カスタマーサクセス5原則」の対応関係を用いて、かなり詳細に深堀りされている。

■ リテンションモデルの成功要因
1. ライフタイムバリューを最大化させる
2. 買ってもらってからが勝負
3. 手放せない・外せないプロダクト 
4. データからカスタマーの未来を創る
5. スケーラビリティ構築力

■ カスタマーサクセス5原則
1. 成功を届けられるカスタマーとの末永い関係に責任を持つ
2. 素早く・負荷なく・漏れなく成功を届ける
3. プロダクトチームとサクセスチームがベタベタに連携せよ
4. データの統合・分析に投資し組織全体でデータをフル活用する
5. カスタマーの手と知恵を活かす、そのための基盤を育む

この対応関係の詳細についてはぜひ本書を読んでいただきたいところだが、自分が手掛けるプロダクトが "単なるサブスクリプションモデル" ではなく "デジタル時代の競争力の源であるリテンションモデル" であると信じるなら、カスタマーサクセスを力強く推進していかないわけにはいかない、という焦りを常に感じさせてくれる章だった。

感想

正直なところ、"これからの時代はxx" なんてことは僕にとってはどうでもよくて、「自分が携わっていきたいと思っていたものの正体が、実はリテンションモデルのプロダクトだったんだ」という心持ちです。 冒頭でも書いたけど、「自社サービスをやってる会社に入りたい」という感覚の正体も、7,8割がこれなんじゃないかと思ったりしています。そして、それに貢献できる大きな力のひとつになるのが、カスタマーサクセスである、と。

ここで紹介したことはまだまだほんの一部で、本書では他にも、

  • 成功ブリッジ(「それはカスタマーの問題だ」と認識するのではなく「自分たちの問題」と受け止め、真摯に対応すること)という考え方
  • カスタマーサクセスを推進する組織をつくるときに大切な視点、「再現性」と「急進性(スケーラビリティ)」
  • カスタマーサクセスにおけるテクノロジー活用の重要性
  • キャリアとしてのカスタマーサクセスの将来性

といったことが触れられていて。

今僕がやっているお仕事は、本書でも紹介されている "CRE(Customer Reliability Engineer)" というもので、この仕事はカスタマーサクセスというものに限りなく近い場所に位置しているロールだと思っており、そのことに僕は「なんという僥倖・・・!」という気分でいます。今のポジションを十二分に活かして、うまく仕事化して回していきたい、いかなきゃ、と改めて感じています。

もっと早くにこの考え方になっておきたかった。いまのところ、今年読んだ本のなかで一番多くの学びを得られた本だな、という一冊でした。