えいのうにっき

a-knowの日記です

「おもてなし幻想」(原題:THE EFFORTLESS EXPERIENCE)を読んだ

1年くらい前に買って積ん読したっきりになってしまっていたところ、なぜかこのタイミングで読んだ。この本が伝えている要点は以下のようなことかなと思う。

  • 現代社会における顧客ニーズは、「期待以上のサービスを受けること」(「おもてなし」という言葉が指してきたであろう顧客体験。「顧客体験の足し算」)から、「期待通りのサービスを、可能な限り少ない労力で」(「顧客努力の引き算」)へ、移り変わってきている
  • それどころか、以下のような調査結果も出てしまっている。従来までの「おもてなし」は、顧客ロイヤルティに対しては割りに合わない!
    • 「おもてなし」をしようとあれやこれやの接点を持とうとすることで、顧客ロイヤルティを毀損してしまう(ディスロイヤルティの)機会を生む可能性が4倍も高くなってしまう
    • 「期待以上のサービスを受けた顧客のロイヤルティ」と「期待通りのサービスを受けることができた顧客のロイヤルティ」には差がほとんどないこと
  • カスタマーサービスを利用させてしまっている時点である程度の努力を強いてしまっているわけだが、それ以上の努力をさせない・感じさせない、それができる優れたカスタマーサービス担当者は「コントロール指数(CQ)」が高い
    • これは、プレッシャーが厳しく複雑なサービス環境で判断をくだし、コントロールを維持する能力。

「よりエフォートレスな体験を」、というのは、前職時代から何度なく耳にしていた考え方だった。本書は、それを(特に顧客ロイヤルティという観点で)裏付けるデータや図が多くあるので、そういったことを誰かに説明する際の根拠としても活用できそうだなと感じた。

本書を読んだことによる個人的な一番の収穫は、カスタマーサービスに対して「経験工学」を適用させる、という考え方に出会えたこと。カスタマーサービスの文脈における「経験工学」とは、本書(P.186)によると以下のようなことであり、

  • 告げられた内容を顧客がいい方向に解釈するように注意深く言葉を選択して会話を思い通りに扱うこと。
  • 注意深く選択した言葉づかいで会話をコントロールしてそのかじを取り、告げられている内容を顧客がどう解釈するかを改善すること。

これは、特にカスタマーフェイシングな業務をしているカスタマーサービス担当者の「共有・向上可能なスキル」を構成する重要な要素の一つであると思った。

僕は今「カスタマーサクセスエンジニア」という肩書きで仕事をしており、その名前の通り、カスタマーサクセス業務を中心に日々の仕事を行っている。その多くはハイタッチな内容であり、また全体工数の数割はカスタマー"サポート"業務(まさに本書で多く扱われていたような)にも割いている。それもあって、最近「CS組織におけるスキルの向上とは」といったところを考え始めていたこともあり、その観点でもいくつかヒントのようなものを与えてもらえた気持ちになれた。

監修者のあとがきにもあったが、「おもてなしの概念自体が陳腐化したわけではない(P.410)」と思う。 情報化社会における顧客ニーズである「顧客努力の軽減」にしっかりと向き合っていく先にこそ、おもてなしの未来がある(P.410) ということを教えてくれる一冊だと感じた。