ときどき、例えばシャワーを浴びてるときとか、SE(システムエンジニア)として新卒で入社した会社で出会った先輩のことを、ふとした拍子に思い出す。7,8年前とかのこと。
その先輩は、当時の僕が所属していた、いわゆる炎上案件に、火消し役の1人として応援で・転勤してやってきた。年齢でいうと4つくらい、等級でいうと2つくらい上で、会社からは幹部候補生として期待されていたような "デキる" 人だった。「僕の2つくらい上」というその等級は、いわゆる管理職の一歩手前という段階だったのだけど、その人は(良い意味で)そんな感じは全くしなくて、経験だけではない、技術にも裏打ちされた落ち着きを常に身にまとっている、そんな感じの人だった。「バグだ!わからない!!」と、まだまだペーペーの僕がどんなに焦って・慌てているときでも、淡々と状況分析をしてあれよあれよと問題を解決してしまう、そんな人。
そんな人なので、頼りがいはありつつも、少し近づきがたい、そんな空気も持っていた。だけど、そんな先輩と一気に距離が縮まった出来事があった。当時、僕はとある音ゲーにハマっていて、特にすることのない休日には近所のゲーセンに出向いてそのゲームをプレイする、というのが定番の過ごし方だった。その日も、特に変哲も無い休日をやり過ごすために行きつけのゲーセンに行ったのだけど、そこでその先輩を見つけたのだった。しかも、彼がプレイしていたのは当時の僕がハマっていたものと同じゲーム(しかも僕よりも上手い)。
「お疲れ様ですw」「○○さんも××やるんですね!」、というところから始まり、その日以降は何かにつけ、あれやこれやを話した。僕は、どちらかというと早めに自己開示をしてしまうタイプの人間なので、「いずれ Web 系の開発を仕事としてやってみたいと思っているんです」、ということも何度目かの食事のときに話してしまったのだけど、「××(件のゲームのこと)が好きすぎて、そのスコア管理をしてくれるような Web サービスを作って公開している」ということをその先輩が教えてくれたのは、相当仲良くなってからだった。
その Web サービスは、今思い出せるだけで、PHP・MySQL・さくらのレンサバだったか VPS だったかで構築・運用している、という、今の僕でこそその構成がある程度想像は付くものの、片足をまだ COBOL での汎用系システム開発に突っ込んでいたような当時の僕からすると、「なにをどうしたらこんなすごいものが作れるのか」というのはもちろんのこと、「その先輩と自分との間の距離がどのくらいあるのか」「その先輩に追いつくためには、まず何からやってみればいいのか」すらも皆目検討もつかない、といったかんじだった。
そしてなにより、この瞬間は、その先輩が「自分が理想とするものの作り方が出来てる人」、「それによって一定の評価(=作ったものを使ってくれるユーザー)を既に得られている人」、となった瞬間でもあった。
「僕が行きたいと思ってるようなところに、今すぐにでも行けるんじゃないですか?!」
「そういうところに行ってみたい、趣味でやっているような開発を仕事でやってみたいと思ったことってないんですか?!」
「そこまでして今の仕事にしがみつく理由ってなんですか?!」
......今思えば、思いつく限りの失礼な質問をしつくしたな、と思う。でも、そのどの質問に対してもその先輩は、ただただ「いやいやいや...」と恐縮したような苦笑いを浮かべるだけだった。
当時の僕はそれを、単に「なるほど、臆病な人なんだな」と思ったかもしれないし、「これだけできる人だからこそ、身の程を知っているからこそ、僕がいうようなところとの距離がよく見えてるのかもしれない」とも思ったかもしれない。でも逆に言えば、それ以外の理由にまで思慮を巡らせられるほど大人でもなかった。
で、これまた失礼な話だけど、たぶん僕は彼のことを「臆病なんだ」と思おうとした、と思う、今となってはあまり覚えてないんだけど。というか、そうでないと、「その先輩ですら恐縮するような距離を、こんな僕がどう走りきればいいのか」、と絶望したと思うし、絶望したくなかったんだと思う。当時は、行きたい、というところに向かう気を縮こませてしまうような「身の程」なら、知らなくていいと思ってた。......これって、「無謀」でしかないのにね。w
まだまだ、来た道を振り返るようなところまで来れてはいないけど、いま僕は「当時の僕がいたところ」と、「 "いきたい" と強く願った場所」とを結ぶ線上の、その途中には来れているように思っていて、そのこと自体は誇りに思っている。
そしてなんというか、僕はまだまだこの道の先に行けると思っているようで。まだまだ身の程、知らないままで行こうと思う。